瀬名は「静かなジャンヌダルク」
NHK大河ドラマ「どうする家康」第23回「瀬名、覚醒」という何とも来ないでほしい未来を感じさせる副題の回が6/18に放送された。はい、1週間前ですね。
いつも1週間遅れで私の個人的なダラダラとした雑感をお送りしているが、ネタバレという観点からすると1週間遅れぐらいがちょうどいいのかも、ということにしておく。大体、土曜日の再放送を見てからノンビリ書こうかなと思い立つ訳だから・・・平日は他に限られた脳みそを使うから仕方ない。
さて、公式サイトからあらすじを引用させていただく。
瀬名(有村架純)が武田の使者・千代(古川琴音)と密会していると知った五徳(久保史緒里)は信長(岡田准一)に密告。すると信長は、水野(寺島進)が武田と内通していると言いがかりをつけ、家康(松本潤)に処分を迫る。苦渋の末、水野を手にかけた家康は、侍女・於愛(広瀬アリス)に癒しを求めるように。一方、設楽原の戦い以来、心のバランスを失っていた信康(細田佳央太)に、瀬名は秘めてきた大きな夢を打ち明ける。(これまでのあらすじ | 大河ドラマ「どうする家康」 - NHK)
壊れていく息子。大事に大事に育てたひとり息子だ。実家が潰された今となっては、血がつながるのは息子と娘だけになってしまった瀬名。彼女にとって、信康は掛け替えのない存在だ。
その息子が長篠の戦での人を人とも思わない織田信長による新しい戦い方(一方的に銃で殺戮していく)を目の当たりにしたことで精神を病み、常軌を逸した行動をするようになってしまった訳だ。未発達のteen-brain だからショックが大人よりも大きかったのも仕方ない。それで母は立ち上がるのだ。心情的にとても同情する。
再放送を見たら、続けて放送された土曜スタジオパークには瀬名役の有村架純と、五徳役の久保史緒里が出演していた。そうだよね😢土スタご出演ということは、瀬名が退場する前振りだよね。
有村架純は、自身が演じる瀬名について「静かなジャンヌダルク」「最後尾で皆の背中を押し続けた女性だ」と形容した。ジャンヌダルクか・・・彼女なりの信念を持って行動し、最後は火あぶりになる悲劇的なイメージがある。瀬名も、時代と環境に恵まれなかっただけで、彼女なりの正義に従って行動したと言いたいのかな。
築山殿は悪女と言われているけれども「本当はそうじゃなかったんじゃないかというところでこの物語を作っていきたい」と脚本家・古沢良太は有村架純に意図を語っていたそうで、現代の女性に近い存在として描かれているそうだ。
瀬名の悪女伝説については、NHKが「虎の巻」でも説明している。(どうする家康 虎の巻 天下取りの秘密その五 瀬名 悪女伝説!? - #どうする家康 - NHKプラス)戦国時代までは武将の正室が政治に関わり、夫の代わりを務めるのは当然のことだったそうで、時代考証を務める平山優先生曰く、
- 江戸時代は女性が政治に参画できなかった男性中心の社会で、いわば出しゃばりとか、それが(築山殿の)悪女説の根源になった
- つまり築山殿の実像と、今日、江戸時代から流布されている虚像と言うもののギャップはかなり大きいのだろう
- 家康と築山殿の夫婦仲が悪かった証拠はどこにもない
ーーとのこと。だから、それに則って未だかつて見たことのないラブラブ夫婦の家康♡瀬名がこのドラマで出現した訳だ。本当に新鮮、でも今作に付いて行けない人が続出したのも、天下を取った家康がヘタレという点がまず信じがたい上に、良妻賢母の愛らしい瀬名が前代未聞だったからのような気もする。
そう、こんな家康夫妻は見たことない(実際に会ったことも無いけど)。
土スタでの有村架純は「ウサギは重要」と木彫りのウサギにあえて触れていたので、ウサギは瀬名の最期に絡めて出てくるのかな?なにしろ、あのウサギは色々な人物が集合するだろう築山に置いてある。次回は今川氏真&妻の糸(早川殿)、於大と夫(本当は隠居じゃなく出奔していた?)、大鼠(?)も集合するのだから、何事かが起きるのだ。
「母にはずっと胸に秘めてきた考えがある。もしそなたがやるというのなら、全てを投げ捨ててそれをやる覚悟がある」という、瀬名の大きな夢って?戦国時代の感覚を飛び越えた現代的な女性だとすると、もしかして永世中立的な場を築山に形成すると言い出すのか。今のスイスみたいな。以前、瀬名は築山を貰った際に誰でも来られる場にしたいと言っていたよね?(姑の於大以外は歓迎するって。)
でも・・・スイスは中立を守るために武力も整え、それだけ血を流してきた歴史がある訳だから。単に織田の手先になってエンドレスの戦を戦うのは嫌だと精神的な平和の尊さを訴えても、それは空しく蹂躙されて終わるだろう。高度な文明を持っていたと言われながら、滅ぼされていったインカ帝国などが頭を過ったりする。
しかし、スイスとは想像がたくましすぎるか。瀬名の真意がどこにあるのか、まだ分からない。彼女の最期までもうあまりないはず。文句を言わずに付き合おう。
穴山梅雪が築山にキター
気になっているのは、穴山梅雪の登場だ。彼が出てきたことで「もしかしたら今作の脚本家は瀬名には優しいし、処刑を免れて武田に落ち延びるなんてこともあるのかな?」と考えてしまった。
どこで読んだが思い出せないが、武田滅亡後の1582年に家康の側室になる武田の姫(お都摩の方、下山殿。穴山梅雪の養女)が瀬名に似ていると家康が喜んだって話が無かったかな?年齢的に少々無理だよねとは思うけれど、瀬名=下山殿とのことでドラマが転がっていかないかな?そうしたら、有村架純にはもう少し会えることになる。
穴山梅雪を演じるのが田辺誠一だから、これまでのポジション(信玄や勝頼の横でただただ従っている)には満足できない、これで終わるわけが無いと思っていた。何か通り一遍の役割じゃない、特別な役割がこのドラマの中では与えられているはず、そう信じていたが、もしかして伊賀越えエピぐらいで終わるかなとモヤっとしていた。
そしたら!やっぱりである。築山殿を貶める逸話の中で必ず出てくる唐人医師(「長勝院の萩」では減敬)を思わせる出で立ちで、田辺誠一がご登場だった。このドラマでは滅敬(めっけい)との名で、上の者を連れて来いと瀬名が千代に言ったため、武田の外交担当の穴山信君が来たのだね。
この穴山信君、梅雪の方が私的には馴染んでいるのだけれど、この穴山梅雪に関して、ちょっと驚くことを耳にした。私が大好きな歴史家の磯田道史がご出演の6/20テレ朝「本能寺の変、14の謎を解け」という3時間スペシャルの結論がこうだった。
《本能寺の変》の新事実が今夜明らかに!!神社仏閣3時間SP|テレビ朝日
なぜ明智光秀が本能寺の変を起こしたのか・・・それは「信玄とのつながりがバレた」から。バレた原因は、武田の外交担当で全てを知っている男・穴山梅雪が、武田滅亡時に織田方に付いたからだ、と。
知らなかったな・・・💦今、そういうことになってるの?
信玄は1573年に死んでいるが、光秀は「かねて内通ありしかども信玄死去し勝頼討たれ、本意を失われしに(明智光秀は以前から信玄と内通していたが、信玄が死去し勝頼が討たれたので本来の意志を失った)」という、光秀家臣で後の春日局の父・斎藤利三の息子の証言が、熊本の細川家公式記録「綿考輯録(めんこうしゅうろく)」に記録されているのだそうだ。
磯田先生は「一次資料じゃなくてもこれを無視できますか?」と鼻息も荒かった。
曰く、外交が得意な光秀は、もし内通していなかったとしても武田とのチャンネルは持っていただろう。武田国境に近い美濃の豪族に縁があり、ズブズブに内通していなくても何らかのつながりはあったはず。本能寺の変の前、信長と光秀の関係が悪くなった頃に、信長に気に入られたいと思っている穴山梅雪がやってきた。内通していなくても、光秀の恐怖感は増幅されたことは考えられる。武田が信長に仕掛けた諜報戦がゆっくり毒のように効いたことは無かっただろうか、と・・・。
確かに、光秀は足利義昭側の都人のような顔をしているけれども、そのルーツを思えば、武田国境の岩村城近くに明智城もあった気がする。光秀の前半生はベールに包まれているのだから、武田とのつながりもあったかも。
義昭の指令によって、光秀がスパイのような働きをしていたとしたらと考えると、なんて面白いんだろう。そのスパイの正体が穴山梅雪の織田側への加入によって信長に明かされることを恐れて、というのは分かる。本当だったら生きた心地がしないし、そうじゃなくても「気に入られたい人=梅雪」が自分について有ること無いこと信長の耳に吹き込むと考えたら恐ろしいはずだ。
そう思うと、梅雪が伊賀越えで殺されたのは偶然だったのだろうか。本当に落ち武者狩りによって?実は、明智軍が絶対に殺せと血眼になっていたのかも。
そして・・・実は武田と他家とのつながりを全部知っているという点では、家康も梅雪を危険視していたのではないか。
瀬名と信康が武田方に通じているから処分したとなっている話は、実は家康も同心していたりして。可能性として、無くは無いだろう。妻子が犠牲になってくれることで辛くも家康は嫌疑を逃れたのに、その実際のところを知っていた梅雪が、はからずも織田に来てしまった、という話だったとしたら?徳川に災いをもたらすネタを知っている梅雪の命を奪うには、伊賀越えは絶好の機会。家康も絶対に梅雪の命を奪うだろう。
いやー、怖い怖い。妄想は膨らむ一方、ドラマからはちょっと脱線したが、そんな方向も面白い。何しろ一筋縄ではいかない田辺誠一が梅雪だから期待している。
お葉さん健在、今も直角にターン
角を直角に曲がる女、Lの側室・西郡の局お葉が家康の世話を粛々とこなしている様子を見て「おお、ここにいたか」と嬉しかった。瀬名が岡崎にいるから、浜松での家康のお世話を万全にこなしていたのが彼女だということだろう。
お万の方の騒動があって、その後に瀬名の指示で派遣されたのかな?パートナーのお美代も一緒かな?お葉は、実質はともかく、表向きは正室の瀬名が認めた側室で、娘も生んでいて御腹様の地位にある。女子衆の上に立つ「妻」の役割はきちんと務めているようだった。
その西郡の局に仕えていたのが西郷の局(於愛)の母だという話があるそうで、その縁で彼女は家康の側室になったのだとか。その説がある程度活かされてドラマも構築されていた。良く知られた「近見姫」の説もうまく使われ、於愛がまさか万千代と人違いしてバーンと殿である家康のお尻を叩くとは思わなかったが、面白かった。
今回、於愛は正室の瀬名との面接をクリアしていて、これも今までの彼女の描かれ方(と言ってもドラマ化では竹下景子ぐらいしか憶えていない)からすると新鮮だった。ヘタクソな横笛は、夫の形見なのかな?築山殿と仲が悪くなった家康が、正室には許しを請わず、黙って勝手に妻にしたのが西郷の局、という描かれ方が創作の中での印象だ。
(蛇足ながら、面接のときの「源氏物語」だけど・・・当然ながら来年の大河ドラマに対するサービスなんだろうが、ちょっと源氏物語に対する温度が違うなあと個人的には思った。感じ方は人それぞれながら、次々と女関係を結んでいく光源氏に自己投影してウキウキできる読者もいる一方、ヒロインの紫の上や、その他の女君に共感して物語を読み進める側だと、自由が無いままつらい世を生きる女たちの境遇が身に迫り、私は出家したくなってキャピキャピはできなかったなあ。)
さてさて、この西郷の局は若くして1589年には亡くなり、前述の下山殿も1591年には亡くなる。1586年に秀吉の妹の旭姫が家康の継室になっているから、気苦労は相当だったろう。旭姫は1590年に亡くなるが、3年連続でバタバタバタと女たちが亡くなっているのも何か気味が悪い。ちなみにお葉の西郡の局は1606年没と比較的長命だ。
そして、万が一さっきの路線で下山殿=瀬名とすると、正室だった人物と継室がバッティングする。話としては面白くなりそうだけど、こんな思い付きは大河ドラマではやらないだろう。
印象が弱い主人公・家康
主人公の家康はどこに行った、と言われそうなので少しは書く。伯父である水野信元の粛清については、何と言うか、もっと葛藤は無いのか・・・と家康の在りように物足りなく思った。
桶狭間の戦いの際にも、織田への渡りをつけてくれたり気にしてくれた恩のある伯父ではないか。母の於大も絡んでのひと悶着を期待していたのに、ずいぶんと静かに、あっさり済んだものだ。
水野信元が自害する振りをして久松長家を人質に取って抵抗した時、咄嗟に刃を付け殺害したのは未だにすぐ泣くキャラの平岩親吉で史実通りだったが、余計な葛藤がたっぷりで、いい年の武将なのにお前が泣くんかい!と思わず突っ込んでしまった。別の場面では山田八蔵と女子衆に混じって針仕事をしていたが、そういうキャラ付けって必要なのだろうか。リラックスできる場である針仕事に混じる男というのも・・・そんな気が無いのはわかるけど、安心できる場が侵食されていく。
七がいつまでも泣いて見せる代わりに、家康は相変わらずピリッとせずボーっとしている。家康もダメージから立ち直れないのか。せっかく伯父が死に際に「俺はお前への見せしめだ」とヒントをくれたのに、直視するのを避けるよう。ここでテキパキ対処して瀬名と信康の死地を打開してしまっては史実と異なってしまうから困るけれど、いつになったらウチの殿は将来の天下人らしく成長してくれるんだろうか。それとも、ホワ~ンとしたまま周り頼みで終わりまで行くんだろうか。
久松長家の隠居の顛末も、彼の心の動きが分かりにくかった。長家は、なぜ隠居したいと考えるに至ったのか。
聞いた話では、彼は水野信元を警戒させないように呼び出す役をそれと知らずに家康に担わされ、信元を殺す片棒を担がされたことに反発して家康の下から出奔した、とのこと。でも、このドラマでの久松長家は、出奔せず隠居止まりだし、信元の死は分かっていたみたいでお経もあげていたし、そうするとどうなっていたのか?
夫がそうなっても、於大は家康に詰め寄るでもなく・・・なんだかなあ。徳川家は部分的にでも機能不全に陥っていないか。
むしろ、多少なりとも人間らしさを見せたのが織田親子だった。
五徳は姑告発の書を実父信長に送るにあたり、涙を流したり、警告の言葉を直接瀬名にも伝えた。姑に気づいてほしかったのだろう。どれだけ父が怖いかは、先日、頬をグイッとつかまれ「徳川を見張れ」との命令を叩きこまれた時の様子でよくわかった(中の人お上手)。
思えば、今作の五徳は孤独だっただろうな。幼少期に、まんじゅうの件で竹千代(信康)と揉めた場面があった。瀬名は、話を聞いて第三者的に振る舞おうとしていたが、「2つ目のまんじゅうに手を出した信康をいきなり叩いた五徳が悪い」と決めてしまって、息子の味方をして終わった。「あんまり賢いやりかたじゃないよね瀬名」と気になった。
信康が2つ目に手を出す前に、五徳に「2つ目のまんじゅうは妹のものだ」と説明すればトラブルは回避できたのだから、瀬名は自分の息子に「説明をしなかったあなたが悪いよ」と言うべきだった・・・とは誰も五徳のために言ってくれない。そういう環境で育ったのだから、自分を守るために「信長の娘じゃ」と笠に着たくもなるだろう。
その魔王信長が、伯父殺しは命じてきたけれども妻の不穏な動きについては、まだ黙ってくれている。このドラマの信長は、家康に決定的な所では温情をかけてくれるような気がする。そこに愛があるから。それに甘える癖がついちゃってるのかな、家康よ。
(敬称略)