6/13、北条義時の800年忌
見ているこちらも重苦しくなる内容のNHK大河ドラマ「どうする家康」第22回「設楽原の戦い」が、6/11に放送された。
そちらについて書く前に・・・今週6/13はナント、昨年夢中になって視聴した「鎌倉殿の13人」主人公、北条義時の800年忌だったと聞いた。義時ゆかりの覚園寺、北條寺(他でもやってたかも)では法要があったそうだ。
ツイッターを見たら、覚園寺でのお供えはキノコが多め。そして、参列者に配られたのは「きのこの山」だったようで。なんともシャレの効いた話ですな。出歩く元気があったら行きたかったなー。
#北条義時公800年遠忌法要をいたしました。大河ドラマ制作発表から3年間、ゆかりの地として新しくチャレンジしてきましたが、コロナ禍もあり困難でした。それ故に、本日鎌倉に集っていただいた皆さまのお顔を見たら、すべて報われた気持ちになりました。#今日のお供えはキノコ多めにしときましたpic.twitter.com/Q6HzFCUHGo
— 鎌倉覚園寺KakuONji (@KakuONji1) June 13, 2023
この6/13というのは、明智光秀の命日でもあるそうだ。なんというか・・・主殺しのおふたり、それでも大河ドラマの主人公に選ばれることによって同情する理解者も21世紀には確実に増えたおふたり、奇遇だなと思った。
義時が今年800年忌ということは、来年は政子?また鎌倉や伊豆の国市に行きたくなった。
ちなみに光秀は何年忌?2023マイナス1582は441か・・・この「どう家」のキャラのモデルたちは、北条義時と我々の時代の中間点よりちょっと昔側あたりに生きていたんだね。ゾロ目の444で計算してみたら、1579!この年は、築山殿が処分される年のはずだ。
悲劇前の息抜き、ダチョウ俱楽部とエビすくい
さて、「どうする家康」に戻ろう。公式サイトからあらすじを引用する。
徳川・織田連合軍は長篠城の西・設楽原で武田軍と対峙。だが信長(岡田准一)は馬防柵を作るばかりで動こうとしない。しびれを切らした家康(松本潤)は、わずかな手勢で武田の背後から夜襲をかける危険な賭けに出る。策は功を奏し、勝頼(眞栄田郷敦)は攻めかかってくるが、信長はその瞬間を待っていた。3000丁の鉄砲が火を噴く!(これまでのあらすじ | 大河ドラマ「どうする家康」 - NHK)
「見てるこちらも重苦しくなる内容」と先ほど書いた今回、6/17再放送でも気分が悪くなった。だが、殺戮前には視聴者のために緊張を緩めるポイントも用意されていた。織田家臣団によるダチョウ俱楽部リスペクトの「どうぞどうぞ」、そして酒井忠次を奇襲に送り出す「死んでたまるか海老すくい」だ。
この設楽原(当時、この場はそう呼ばれていなかったとの歴史家のコメントも見た。だから「長篠・設楽原の戦」じゃなくて「長篠の戦」で良いと。色々な説がある。後世どう呼ばれているだろうか?)での戦いでは、数に勝る3万の織田・徳川連合軍に、1万5千の武田軍が向かってくるように、キツツキ戦法を思いついて信長に進言、実施したと聞く酒井忠次の活躍が楽しみだった。
だが・・・今作では、忠次が武田軍後方の鳶ヶ巣山砦を急襲して武田軍を挟み撃ちにすることを思いつくが、信長陣営は既にその作戦を検討した上で芝居を打ち、危険な作戦を徳川軍にわざわざ擦り付けたように描かれた。
家康:信長殿!直ちに打って出て武田を追い払い、長篠城を救うべきと存じまする!
忠次:数で劣る武田から攻めかかってくることは無いと存じまする。
羽柴秀吉:ほうじゃのう、どうすりゃええかしゃん。どうすりゃどうすりゃどうす・・・(信長との囲碁)あ!また囲まれてまった!上様、お強うごぜ~ますなあ。
織田信長:加減をするな、猿。
秀吉:加減なぞ、とんでもねえ。
家康:碁をやめんか!
信長:・・・こちらからは攻めかからん。俺は武田を追い払いに来たわけでも、長篠を救いに来たわけでもないのでな。
信康:では、何のためにここへ。
信長:碁を打ちにかの。そんなに攻め入りたければ徳川勢だけでやればよい。
家康:それができればやっております!
秀吉:まぁまぁまぁまぁまぁ!向こうから攻め立ててこさせる手立てがありゃあええんだがね~。大声で悪口言うぐらいしか思いつかんがや。何かええ手立てはねえもんかしゃん。徳川様、何かええ手立てはねえもんかしゃん。(勝家に小突かれて、鳶ヶ巣山砦まわりの地図上にバラバラと何かを落とす)ありがとうごぜ~ます。
忠次:殿。信康殿。
家康:何じゃ。(忠次、信康と隅へ行く)
忠次:鳶ヶ巣山の砦を落とせば、あるいは。
信康:なるほど。いや、しかし
(聞き耳を立てながら無言で目くばせをする信長と織田家中)
家康:かなり危険じゃな。
忠次:他に手が・・・。
家康:(信長に向き直って)一策、献上いたしまする。
秀吉:ありゃ。策がありゃ~すか。
忠次:は。夜のうちに3000から4000の手勢を密かに動かし、ぐる~っと長篠の背後に回り、鳶ヶ巣山の砦を落とし・・・
秀吉:なるほど。いわゆるキツツキにございますな!こりゃ妙案だ。
勝家:上様。ぜひこの柴田勝家にお申し付けくだされ。
信盛:いやいや。この佐久間信盛に。
秀吉:いやいや、この羽柴秀吉に。(家康を見る信長、秀吉、勝家、信盛)
家康:・・・我ら徳川勢に。
信長:危険すぎる策じゃ。俺の大事な家臣にそんなことはさせられん。が、俺の家臣じゃない奴がやる分にはやぶさかではない・・・。(秀吉、勝家、信盛も、家康に「どうぞ」と手を出す)自分から言い出したんじゃ。やり遂げる自信もあるんだろうしな。
家康:(信長を見据え、悔しさをこらえていたが)くそっ!(何かを蹴り、立ち去る。去り際に)くそみたいな芝居じゃ!
まあ、情報戦には非常に長けた織田軍だ。徳川に言われるまでも無く検討済みだったというのはあり得そう。それを後に生き残った徳川が、織田の鉄砲隊の活躍を少々薄めるために自軍の酒井忠次の手柄をいくぶん盛って江戸時代以降に伝えても不思議ではない。歴史の通説は、勝者寄りになりがちだ。
そしてその作戦に出発する忠次を送り出す、石川数正の低い声で始まる「えーびーすくいー、えびすくいー」が念仏のよう。また、若殿の信康までもが参加する幹部の皆さんの踊り(パタリロ!のクックロビン音頭にどうしても見える)に、新参者で「えびすくい」の何たるかを知らない井伊万千代が完全にドン引きし、笑える顔をしていた。
酒井忠次の奇襲作戦は、武田もお見通し
酒井忠次の部隊が鳶ヶ巣山砦への奇襲に動いたことは、このドラマでは武田側までもが簡単に察知していた。ちょっと驚いた。
穴山:敵の別手が密かに動き出しました。
山県:背後の鳶ヶ巣山を落とし長篠を救うつもりかと。
勝頼:・・・と同時に、後ろから我らを押し出し正面へ突っ込ませるつもりよ。
穴山:物見によると敵の鉄砲は1000を超えると。
山県:そんなところへ突っ込めば・・・。
勝頼:さすが信長じゃ。
穴山:引くよりほかないかと・・・後ろを断たれる前に。
NHKが5/31に放送した「歴史探偵」(徳川四天王 - 歴史探偵 - NHK)の分析に引っ張られると、忠次の、というか敵方の作戦を、武田がそんなに軽く見破ったりできたのか?ドラマでは全部見透かしているじゃないか。だったら鳶ヶ巣山砦の守備を厚くしておけばよかったじゃん、勝頼よ。
しかし、夜襲に動く別手は察知できるのに、鉄砲の数を大きく見誤っている武田軍。物見(忍び)の情報収集能力には、やはり疑問符が付く。
そして、織田本陣。
秀吉:酒井忠次殿の動き、ちょびっともたついておりますな。
佐久間信盛:もう手の内は見破られたことでしょう。
かわいそうだなー、忠次。そして私みたいに「歴史探偵」で予習して彼の見せ場を待っていた視聴者も肩透かし。そんなに簡単に看破される行程じゃなく、難所を越えて道なき道を行くように見えたけど。
なぜ忠次の作戦はドラマで貶められなきゃいけなかったのか?今ドラマは本多忠勝の生涯無傷の逸話にしろ、サクッと否定して笑いにしてしまい逸話の強化はしない。その憂き目に酒井忠次の鳶ヶ巣山砦奇襲も遭ったってことかな。それが嫌なら「徳川実記」でも読んでろと。
それで、この設楽原で活躍したのは酒井忠次チームじゃなくて鉄砲3000丁に尽きる、と言いたかったのかな。
勝頼のカリスマは素晴らしかった
いとこの穴山信君が退路を断たれる前に引こうと勧めていたのに、勝頼は、倍ほどの敵勢に向かっていく決断を下した。信長は勝頼を評して「並みの将であれば引くであろう。もし引かねば勝頼はとんでもない愚か者か、あるいは・・・」と言葉を飲んだ時に、背後で雷鳴が轟いた。
雷雨は桶狭間を思い出させる。信長は、勝頼の才を高く買っているから、過去の自分に勝頼を重ね合わせたか。桶狭間でとても見込みのなさそうだった自分が、今川義元の大軍に立ち向かって勝ち切ったことを勝頼が再現しようとしていると考えたのだろうか。
鳶ヶ巣山砦を落とされて、穴山信君が駆け込んできた。
穴山:鳶ヶ巣山砦、敵の手勢に襲われ、落ちましてございます。引き上げのお下知を。・・・急がねば、逃げ道を塞がれます。
勝頼:(空を見上げて)・・・父が好きな空の色じゃ。
ここで差し込まれたのが、在りし日の信玄が槍を振るう姿。阿部寛は若い頃から古武道に通じていると聞くだけに、堂々たる槍捌き、ぐらつきもしない。「麒麟がくる」で主演の長谷川博己が刀を振るって決めポーズのところでグラグラしちゃって冷や冷やしたが、阿部寛と眞栄田郷敦の「武田親子」はさすがに違う。間違いなく鍛え上げた武士の親子の再現であり、素晴らしい。
勝頼:(朝焼けの空を見つめていた勝頼)我が父なら、どうすると思う。
穴山:間違いなく、引くことと存じます。
山県:信玄公は、十分な勝ち目無き戦は決してなさいませんでした。
勝頼:その通りじゃ。だから武田信玄は天下を取れなかった。手堅い勝利を100重ねようが、1の神業には及ばぬ。(去る)
穴山:御屋形様!
勝頼:(軍勢の前に立って)まもなく逃げ道が塞がれる。正面の敵は3万。待ち構える鉄砲組は1000を超える。直ちに引くのが上策である。
だが、引いてしまって良いのか。目の前に、信長と家康が首を並べておる。(兵一同:オー)このような舞台はもう二度とないぞ。(オー)命永らえたい者は止めはせん、逃げるがよい。だが、戦場に死して名を残したい者には、今日よりふさわしき日は無い!(オー!)
あれを見よ。(設楽原をまたぐ虹)吉兆なり!我が父が申しておる!
(回想の信玄:敵は織田信長!)
勝頼:武田信玄を超えて見せよと!(オー!)
(回想の信玄:徳川家康を討つ!)
勝頼:我が最強の兵どもよ!信長と家康の首を取ってみせよ!(オー!)お前たちの骨は、このわしが拾ってやる!(喚声)
山県:(跪いて)先陣、仕りまする!
勝頼:(頷く。刀を抜いて)御旗、楯無、ご照覧あれ!出陣じゃ~!
(回想の信玄:いざ、風の如く進め!)
なんでも、虹が出ること自体じゃなくて敵陣の方角に出ていることでこちらにとっては吉兆、ということらしい。なるほど。
中世の虹は、掛かっている場所、方角が不吉。なので駿河方面に掛かった虹をみて今川氏の不吉を信玄はみた設定。勝頼は織田・徳川軍の方に掛かった虹をみて相手の不吉、武田の吉兆をみた設定。 #時代考証の呟きhttps://t.co/SkP4q6VvKq
— K・HIRAYAMA (@HIRAYAMAYUUKAIN) June 16, 2023
ここまで兵士を盛り上げることができる勝頼、すごいカリスマだ。この腹から出ている重みのある眞栄田郷敦の声が素晴らしい。山県は観念したように先陣を申し出た。そして、中井貴一主演の「武田信玄」ではこれでもかと聞いた気がする「御旗、楯無、ご照覧あれ!」が、この場面で登場。今作では初めて聞けたのではないか。
家宝の旗と鎧(銘が楯無)に頑張るから見ててね!という意味なんだと理解していたが、「これを当主が言ったらもう家臣の誰も、決定に口を挟めない」という隠れた指示があるとツイッターかで見たが、知らなかった。えー、そうなんだ。「武田信玄」「風林火山」でそんな話があったっけ?
まあ、とにかくだ。勇ましく倍の数の織田・徳川連合軍に向かっていった武田軍は、虫けらの如く鉄砲3000丁の餌食になってバタバタと死んでいった。歴戦の勇者であろうと足軽だろうと、鉄砲は相手を選ばない。人対鉄砲という、無慈悲な戦の仕方を信長が導入し、成果を挙げたのだった。
信長が、ゲスい秀吉の言葉を制して勝頼ナイストライ、あっぱれと褒めたのは、過去の桶狭間に向かって行った自分を褒めたのかなと思った。
ちょっと分からなかったのは、勝頼の采配の意味だ。先陣の兵たちがただただ殺戮されて尚、勝頼は進軍せよと指示したのに誰も従わなかったということか?カリスマも消えたということか。または、さすがに「引け」という指示だったのか?どっちだろう。
「虫も殺せない兄上」だったのに
今回の冒頭、幼き信康と亀姫、そして母の瀬名の間でテントウムシを介したやり取りがあった。
(築山の花咲く庭、信康がテントウムシを捕まえる)
信康:(亀姫に)いいものをやろう、手を出せ。(亀姫の掌にテントウムシを乗せる)
亀姫:やだやだ!取ってくだされ兄上、早く。
信康:かわいいではないか
亀姫:気味が悪うございます。
信康:これもひとつの命じゃ。ですよね?母上。
瀬名:うん、そうじゃな。(信康、テントウムシを袖に乗せる。テントウムシは飛び立っていく)(瀬名、目を輝かせて好ましそうに信康を見つめる)
しかし、それから十年も経たないであろう1575年の今回、設楽原の戦いを前に信康は母や父、妻らの前でこんな言葉を吐いていた。
・武田の大将首を取ってきてやる!
・私も矢面に出て戦いまする。そのために日々厳しい鍛錬を積んでまいりました。武田の強者どもにも引けを取らぬと存じまする!
・(万千代:よもや乱戦ともなれば)大暴れして見せるわ!
本来の優しい信康キャラとは異なる、勇ましい発言だ。でもあまりに無理をしていると母の瀬名には読み取られていたのだろう。
前回の終わりに予告を見て、目の周りを真っ黒にして明らかに気が変になったような描写をされている若者は誰だろうと思っていたら、それが信康だった。設楽原の戦の後も、二股城の戦いなどトラウマ体験を強化するようなことをして、勇ましい言葉を吐いていたが、一方でぼんやりするようになって夜は悪夢に苦しみ、夜中にやってきたのがあのテントウムシを見つけ妹と遊んでいた築山の庭だったとは。
どう見ても、従来の戦の作法など無視して無機物に非人間的に殺されていく武田軍を見た戦時ショックによるPTSDだと、このドラマでは描いている。
「泣いておるのか」と瀬名はショックを受けたのだろう。その愛する息子の変容が瀬名を最大の悲劇へと動かすことになった。
なるほど、脚本家はうまいな。どうしたらラブラブ家康夫婦が反目し、瀬名ラブの家康が妻を殺す悲劇に物語を持って行くのだろうと思っていたら、そういうことか・・・。
精神を病んだ信康は戦場では役に立たない。だから息子が生きられるように、戦のない世界を彼女なりに作ろうと画策するのだろうが、この戦国時代のご時世にそれが理解されるわけはない。
相手方には利用され、味方には裏切りとしか理解されない。
そうやって、瀬名と信康の悲劇のレールを敷いたのか。ふたりが殺されるのは先刻承知にしても、突飛な話を仕立てられたらヤだなと思っていた。こういう話の持って行き方なら、家康も悪者にはならないのかも。瀬名があまり家康には相談できない「賢い」妻だったという設定が活きる。
ああ、でも・・・そうだと頭では理解しても、次回以降を見るのが辛い。見るけど。広瀬アリスの於愛が登場するというのは助かるな。
(敬称略)